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​Statement

私の継続的な制作シリーズである《けしき(KESHIKI)》というタイトルは、陶磁器の鑑賞において古くから用いられてきた「景色」という言葉に由来しています。釉薬や土が窯の中で高温に融け、予期せぬ化学変化を経て生まれる独特の色彩や質感、かたち。それらは、茶の湯の世界において身近な風景や和歌の情景に見立てられ、「銘」を与えられながら、長く愛でられてきました。私は、そうした「偶然」を積極的に受け入れ、自然や時間の痕跡を私たちの感覚のなかに招き入れる、日本固有の美意識に深く惹かれています。

日本人は古来、移ろいゆく季節や、一瞬の光の変化に敏感であり、桜の散り際や川面の揺らぎに「無常」を見出す文化を育んできました。こうした感性は、西洋絵画に対しても独自の視点をもたらしてきたように思います。たとえば印象派の筆致や絵具の質感(マチエール)を、日本人は美術史的な文脈において捉える一方で、それとは異なる次元――水墨画のにじみ、書の筆跡、陶芸の釉薬が生み出す「景色」に通じるものとして、より感覚的・装飾的に味わってきたのではないか。そうした問いを抱くようになりました。

そしてこの「景色」という感覚を絵画という平面に置き換えることで、西洋絵画が築いてきた構図や意味の枠組みに、異なる余白を差し込もうとしています。絵具のにじみや偶然こぼれた滴、乾く途中で刻まれる痕跡など、制作の過程で生まれる意図しない要素を、あえてそのまま画面に留めることによって、構成の外側にある「無意図」を引き受けています。

モチーフや物語を持たない、不定形な層の重なりや揺らぎと静かに向き合うとき、鑑賞者のまなざしはゆるやかに開かれ、内に眠る記憶や感情が呼び覚まされることがあります。そして、感覚と時間の層が媒介となり、それぞれの心の深層で、個人的な〈景色〉が静かに立ち上がっていくのではないかと考えています。

CV

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島根県松江市出身。美術作家。

1972年生まれ、1996年大分大学卒業、1998年岡山大学大学院修了。

現在は岡山を拠点に活動。

現在主に絵画を中心に作品発表を続ける。コラグラフ[凹版画の技法の一種]の手法を取り入れたモノタイプの版画作品のほか、海岸で採取したビーチグラスを用いたインスタレーションなど、その表現手法は多岐にわたる。

■略歴

1996 大分大学教育学部 卒業

1998 岡山大学大学院 教育学研究科 修了

現在岡山市を拠点に活動

 

■個展

2020「いつか見た景色」 岡アートギャラリー/岡山県岡山市

2016「けしきのかたち」 由布院駅アートホール/大分県由布市

2014「けしきのかたち」 CAFE×ATELIER Z/岡山県岡山市

2005「旅硝子」 岡山上之町會舘/岡山県岡山市

2002「佐野行徳展」 小野画廊/東京都中央区銀座

2000「けしき—変わりゆくもの」 島根県立美術館ギャラリー/島根県松江市  他

 

■グループ展他

2021〜23「Vivid Now 工芸展」 岡山高島屋美術画廊/岡山県岡山市

2019 「Independent Tokyo 2019」 浅草橋ヒューリックホール/東京都台東区浅草橋

2005 「倉敷現代アートビエンナーレ西日本」 大原美術館児島虎次郎記念館/岡山県倉敷市

2000 「ジェイワンアートオーディション」/東京都港区青山

1997 「国際丹南アートフェスティバル’97 鉄・土・木・紙と現代美術展」 武生市民ホール/福井県武生市

1995 「島原アートプロジェクト『復興にKISS展』」 旧島原グランドホテル/長崎県島原市 他

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